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就活をする前に(1)

はじめに  第1章  第2章  第3章  第4章

<第1章>

 2008年頃より就職氷河期と言われています。このような厳しい時代に就職期に当たってしまった学生さん は気の毒としかいいようがありません。どのような時代に就職期に当たるかは当人の力ではどうしようもあ りませんから運以外にありません。先日読んだ本によりますと、2007年の時点ではまだ「売り手市場」と言 われていたようですから、ほんの1~2年の違いでこれほど変わってしまう就職事情とは、またそれに影響を 与える経済とはわからないものです。この就職氷河期に就職期を迎えてしまった学生さんは「運が悪い」と あきらめるしか不満を紛らわせる方法はないように思います。
 しかし、氷河期に当たってしまったことが必ずしも悪いとは言い切れません。ものごとには光があれば必 ず影がありますが、影があるということは必ず光があることでもあります。就職氷河期はまさに影の部分で すが、光もあります。そして、その光は就職したあとに射してきます。
 例えば、日本経済は1980年代末にバブル景気と言われた時期があります。当時は日本経済が絶好調 で、ということは就職するに際しても超売り手市場でした。多くの企業が採用を拡大していましたので、当時 の学生さんはほとんど苦労することなく就職が決まっていました。しかし、その後の10年間、なにが起こった かと言いますと、「人余り」です。バブルの時点では、企業は業績が上がり規模が大きくなることを想定して 採用活動を活発化していました。しかし、俗に言われる「失われた10年」で業績はあまり上がらず規模が拡 大することもありませんでした。それどころか、規模を縮小するケースが多く見られました。そのような状況 の中、多数採用された社員は「余った」のです。
 ポスト不足もありました。規模が大きくならないのですからポストが増えないのは当然です。企業のこの状 況は、中堅社員という立場になっても役職がつかないことを意味します。バブル期にそれほど苦労すること もなく入社した社員は入社したあとに影を肌で感じることになったのです。
 ちょうどそのような時期、つまり1990年代後半の時期に、私はある大手事務機メーカーの飲み会に参加 する機会がありました。この企業は一部上場の一般的にも知られた大企業です。当然、新卒採用の規模も 大きく、特にバブル期には大規模な採用を行っていましました。
 私が参加した飲み会には、ちょうどバブル期に入社した社員、つまりその時点で企業内では中堅と言わ れる立場になっていた社員が集っていました。12~13名ほどいたでしょうか。飲み会ですから、気分もほぐ れており会社人としての本音も飛び出していました。そうした発言を聞いていて感じたことがあります。
 彼らは、企業内でも「バブル期に入社した社員」として一目置かれていない立場にいることです。「一目置 かれている」のではなく、「一目置かれていない」のです。つまり、簡単に入社できた社員なので「レベルが 低い」と社内では相対的に思われているようでした。飲み会の席ですので、幾らかは「自虐ギャグ」の面もあ ったでしょう。しかし、そうしたギャグが使われていること自体が「ある程度、真実であること」を物語っていま す。
 このように、「売り手市場」のような苦労なく就職できることは「楽」ですが、入社したあとに大変な「苦」が 待っていることでもあります。簡単に言ってしまうなら、入社時に辛い経験するか、入社後に辛い経験をす るかの違いです。ですから、就職氷河期と言われるときに就職期を迎えている学生さんは入社時に「苦」を 経験するわけですから、入社後には「楽」とは言えなくとも、それほど「苦」を経験をしなくて済むことになりま す。ですから、運がよいとも言えます。考えてみてください。採用人数が少ないということは、それだけ企業 内で競争相手が少ないことを意味します。つまり、昇進も楽にできることを意味します。
 そうは言いましても、入社しないことには「楽に昇進」もできません。まずは採用試験に合格することが大 前提です。そして、採用試験に合格するには、やはり競争に勝ち抜かれなければ目的を達成することはで きません。就職氷河期は、採用枠が極端に少ないのですから競争が激しくなって当然です。その競争に勝 利するために学生さんたちはいろいろな情報を得ようと奮戦しています。
 実は、この情報というのが曲者で、昔からそうなのですが、周りから入ってくる情報は玉石混交です。中に は迷信や噂の類としか思えない「石」のような情報も混じっています。もしかすると「石」にさえならない情報 もあります。しかし、情報の洪水の中にいると正確な判断ができないものです。しかも、焦っていると余計に 判断に狂いが生じてしまいます。
 では、ここで就職活動に臨む際の基本的な心構えを開帳いたしましょう。

・焦らない
・流されない
・こだわらない

 私は、この3つの心構えさえ守っていたなら後悔しない就職ができると思っています。文字にすると、たっ たの15文字ですが、しかしこれを実行するのは容易ではありません。理由は、自分の周りの状況に振りま わされるからです。
 「焦らない」と言われても、自分の周りの学生のうち、ひとりでも内定が決まると心中穏やかではいられま せん。それが幾人かになったなら、「自分だけいつまでも内定が決まらないのではないか」と不安が押し寄 せてきます。
 「流されない」と言われても、友人の口から自分の知らない様々な情報が語られると、それらの情報を知 らない自分を情けなく思い、自信をなくすのが普通です。しかも、少しでも情報を得た友人はその情報を吹 聴したがる傾向があります。すると、その情報の正確さを確かめもせず右往左往します。仮に、その情報 が正確であったとしても、その情報が当人に当てはまるかどうかはわかりません。情報は、受ける側の状 況により価値が異なるからです。それにも拘らず、情報に流されます。
 「こだわらない」と言われても、周りの誰かが有名企業に内定が決まると、同じように「名前の知られた企 業に入らないといけない」と思いこんでしまいます。ご両親も含めて周りの大人と言われる人でさえ同じよう な考えを持っていることが少なくありません。しかし、社会人としてある年月、経験を積んでいる人でさえ、知 っている企業の数はたかがしれているのが実状です。そんな狭い範囲の中から企業を探すのでは後悔し ない就職活動などできるはずがありません。
 これまで説明してきましたように、3つの心構えを守って就職活動をするのは並大抵ではありません。当 初はこれらの心構えを念頭に入れて就職活動をしていても、内定を貰えない期間が長くなるに従い3つの 心構えが頭の隅に追いやられ、忘れ去られていきます。なんど応募をしても、面接を受けても不採用が続く ならほとんどの人がそうなります。人間は誰しも弱い部分を持っているものです。決して若い人だけの特徴 ではありません。落ち込み悩んだときにこそ、是非とも3つの心構えを思いだし活力を蘇らせてください。

 では、企業を選択するとき、なにを基準に決めればよいのでしょう。
 理想の企業選択は「自分の好きな仕事」ですが、実はこの考えも曲者です。「好きな」は「やりたい」と言い 換えてもいいですが、「自分のやりたい仕事」と思っているのは学生という身分のときの考えに過ぎないから です。つまり、そのときに「自分のやりたい仕事」が社会人として一生変わらないとは限りません。「自分の やりたい仕事」が将来変わる可能性もあります。しかも、その可能性はとても大きいのが実状です。
 また、学生さんは仕事の内容を具体的に知りませんから、実際の企業の仕事内容が「自分のやりたい仕 事」と適合しているかを判断するのも容易ではありません。入社して、実際に働いてみたら「想像と違ってい た」ということはよくあるケースです。
 中には、「やりたい仕事がない」とか「やりたい仕事がわからない」という学生さんもいるでしょう。一見、こ のような学生は「自立していない」と思われそうですが、実は、ずっと以前からそういう学生さんは大勢いま す。決して、最近になって見られる特徴はありません。そうです。数十年前から、多くの学生が「自分のやり たい仕事」が見つけられなかったのです。でも、考えてみてください。仕事の経験がない人が「やりたい仕 事」などわかるはずもないではありませんか。今、「なにを選んでいいか」わからない学生さんは決して恥ず かしがることはありません。もし、友人の中で「自分のやりたい仕事」が決まっている人がいたなら、そのよ うな人が稀の存在です。
 次章では、「やりたい仕事」が見つからない人が「どのように企業を決めればよいか」を考えてみましょう。

<第1章> おわり

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