~する前に一覧><脱サラをする前に>無断転載禁止 2011年12月更新

移動販売をする前に(3)

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移動販売をする前に 3 章

 前章で移動販売で成功しているお豆腐屋さんの成功要因について書きました。「商品」と「販売方法」の差 別化がその要因です。

 「商品」の差別化はわかりやすいと思います。同じ商品がほかの店舗で販売されていないのですから差別 化です。味については好き嫌いに個人差がありますから、重要な要因ではありません。大切なのは「ほかで は売っていない」ことです。ユニクロが自店の店でしか売っていないのと同じです。それだけで充分な差別 化です。

 「販売方法」も外見的だけでも分かりやすい部分があります。リヤカーで販売するという販売形式は今ま でになかったものですから、それだけで充分差別化になります。しかも、若い人たちが販売している姿は中 高年の方々に好印象を与えます。ターゲットは中高年の方々ですから販売員の年齢が若いということは大 きなプラス要因です。

 このお豆腐屋さんの客単価は約1,000円ですが、お豆腐関連商品だけでこの客単価を成し遂げているの は素晴らしいことです。これをなし得ているのは商品単価の「高さ」ですが、この「高さ」の設定は見事と思え る価格になっており、これ以上高くても低くても1日の売上げ2~3万円は実現できないでしょう。

 私が移動販売をしていたとき、リヤカーを引いて「今日が初日です」というアルバイトさんと出会いました。 不安そうでどこをどう歩いていいかもわからず、私の印象では「ただウロウロしている」ようにしか見えませ んでしたが、それでも必死に取り組んでいるのはわかりました。そのときはお昼前でしたが、その時点で売 上げが「0 円」と悲しそうな表情をしました。そのあとには会いませんでしたが、「売れない」からとクサらなけ れば「0 円」で終わることはないでしょう。彼はどうしたでしょう…。

 人には波長というものがあります。どんな人にもあります。そして、自分と合う波長の人は必ずいます。で すから、基本的に波長が合う人が「0 人」ということはありません。お豆腐のリヤカー販売も同様で、コツコ ツ歩いていると必ず固定客になってくださるお客様と出会えます。客単価1,000円はそれがあるからできる 数字です。この企業はそれを狙ってアルバイトさんを採用しています。若い人がリヤカーを牽いて歩いてい る姿は必ずや中高年のおじさんおばさんの心をくすぐり購入意欲を刺激します。なんども書きますが、「ター ゲットは中高年」というところがミソです。

 ですが、この販売方法が未来永劫支持されるかというと、その保証は全くありません。人は飽きっぽいと いう性向があります。一時期の感情が長続きしないのは、東日本大震災の被害者に対する他の地域の人 たちの反応が証明しています。被災者たちに同情していても最終的には放射能に汚染されている瓦礫を引 き受けるのを拒否する市町村がたくさんありました。私は、7月頃に桃を販売していましたが、「福島県産」と いうだけで誰も見向きもしませんでした。口では「福島県を応援しよう」などと言いながら、実際の行動が伴 っていなかったのです。いったい、日本人のどこに「絆」があるのでしょう。日本人として情けなくなる体験を たくさんしました。


 つい話が逸れてしまいました。申し訳ありません。話を戻します。

 リヤカー販売のお豆腐屋さんの客単価が約1,000円であると書きました。そして、商品単価の「微妙な高 さ」が素晴らしいと絶賛しました。極端な例を出しますと、リヤカー販売で1万円のメロンを販売することは絶 対できません。これは誰が考えても想像できます。仮に、新宿高野で販売されている高級フルーツと同じも のを販売したとしても結果は同じです。いくら「新宿高野と同じ商品です」と説明したところで、または証明書 を添付したところで絶対に誰も購入してくれません。それはリヤカー販売という方法が高級品販売に適して いないからです。1万円の価値をリヤカー販売でお客様に伝えることはできません。このように考えますと、 自ずと扱うべき商品は限られてきます。

 移動販売の例としてこれまでリヤカー販売を中心にお話をしてきました。しかし、移動販売の手段はリヤ カーだけではありません。これまでに少し触れましたが、自転車、バイク、自動車という手段もあります。こ れらの中でコストがかからない手段をいうなら自転車かリヤカーです。この2つを比べるとき、労力の点で考 えるなら自転車に軍配が上がります。やはりペダルを踏むだけで移動できるのは長所です。しかし、自転 車の短所は積める量が少ないことです。販売という性質上、積める量が少ないことは大きなデメリットです。 こうしたことを考え合わせますと、やはりリヤカーが一番効率的です。なんと言っても、リヤカーはかなりの 量を積むことができますし、ガソリンなどというコストをかけずに自分の身体ひとつで動かすことができま す。

 ですが、ここでリヤカー以外の手段について少し触れたいと思います。

 一口に移動販売と言いましても、対象を不特定多数のお客様とする場合と、特定のお客様だけにする場 合では考え方が異なってきます。後者は「ルート販売」と呼んでもよいでしょう。

 一般的には、移動販売と言いますと不特定多数を対象にする場合を指すのが普通です。しかし、当初は 不特定多数を対象に販売しつつ徐々にルート販売に移行することもあります。ある意味、ルート販売への 移行は移動販売にとって理想に近い形ですが、この移行は自然とそうならざるを得ないことでもあります。 それは、少しずつお客様が固定してくることにより、それらのお客様を回るだけで1日の仕事時間が終わっ てしまうからです。このように、購入してくださるお客様が決まっていることほど楽勝なことはありません。私 は「不特定多数販売」と「ルート販売」の双方とも経験しましたが、それについては後述いたします。

 このように少しずつ固定客が増えてきますと、段々と販売地域も広がってきます。そうしますと、先ほど書 きましたように、自転車からバイクに変わらざるを得なくなります。この変化を別の角度から見るなら、自転 車販売をしているうちはまだ「不特定多数を対象にしているレベル」であり、それは即ち「「まだ固定客が定 まっていない」ことを示しており、またそれは「売上げが高くない」ことを物語ってもいます。このような視点で お豆腐屋さんを見るのもひとつの参考になります。


 次に自動車での移動販売ですが、一般に移動販売というとき、多くの人が真っ先に思い浮かぶのは自動 車での移動販売のはずです。その理由は、目にする機会が最も多いからです。

 たぶん、皆さんも駅のロータリーなどで小型のワンボックスカーでパンやワッフルなどを販売している業者 をご覧になったことが一度はあるはずです。また、夏ですと車体に大きくアイスクリームの絵を描いたワン ボックスカーがゆっくりと走っている光景を見たこともあるはずです。それほど、自動車を使った移動販売は 最も知られている販売方法です。

 しかし、そうであるがゆえに、脱サラ・独立を考えている人たちが最も「独立支援業者に鴨にされやすい 例」でもあります。こういう言い方は辛らつすぎるかもしれませんが、自動車での移動販売は「脱サラ・独立 を目指している人」を販売対象にする独立支援業者にとって最も組みしやすいパターンです。もちろん、ここ でいう独立支援業者には「悪質な」という前提条件がつくことをご留意ください。

 自動車での移動販売は、投資金額が店舗を構えるほど多額でなく、独立・脱サラを目指している人たち がちょっと無理をすれば実現できそうな規模です。独立ゴゴロをくすぐるに適している規模です。

 この規模は独立支援業者にとっても最低ギリギリの規模で、これ以上低い規模、例えば自転車やバイク での独立支援では業者の儲けが少なすぎ面白みに欠けます。それらを考え合わせますと、独立ゴコロ満載 の人と独立支援業者の双方にうまく納まる適度な規模であり金額です。まさに脱サラ・独立を目指している 人の「夢見心をくすぐる」微妙な金額といえます。自動車を使った移動販売を多く見かける理由がおわかり いただけたでしょう。


 自動車を使った「脱サラ・独立」の業種では、なんと言っても宅配業が有名です。私も今から10年以上前、 その説明会に行ったことがあります。しかし、魅力的には感じませんでした。私に説明した方はとても正直 な方で、マイナス面についても実に丁寧に話してくださいました。

 簡単に説明しますと、本部は車を販売することで利益を得るシステムのように感じました。宅配業で最も 大切なのは「配達する」ことではありません。配達する荷物を集めることです。これなくしては「配達する」こ とができません。その「荷物の集め方」がきちんと整備されていませんでした。もしかしますと、現在でもそ のような悪質な例はあるかもしれません。

 宅配業でなくとも、自動車を利用した脱サラ・独立を勧める業者の中で、良心的でない業者は同じような 考え方をしていることが多いようです。移動販売でも全く同じです。移動販売の手段としての自動車をいくら 魅力的にし、なおかつ目立つようにし、そして効率的にし、感動的な接客法を確立していたとしても、販売す る場所がなければ売れるはずがありません。この「販売する場所」の選定もしくは見つけ方という最も重要 な説明を省いたり、ないがしろしている業者またはシステムであるなら絶対に移動販売で成功などすること はできません。普通なら、これは誰でもわかることです。ですが、その感覚を麻痺させ「もしかしたら…」とい う気分にさせるのが移動販売の落とし穴です。


 さて、3章も終わりに近づきました。ここまでお読みになってみなさんもおわかりになったのではないでしょ うか。移動販売にはいろいろな販売手段がありますが、実はそれらはどうでもよいことです。本当に大切な のは、「販売する場所」を見つけること、そしてそこを確保することです。これがとても難しい…。

 次章では、私の実体験を交えながら移動販売の成功の可能性について考えたいと思います。

 3章おわり

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