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~する前に一覧><脱サラをする前に>    *リンクフリー 全頁無断転載禁止 2011年12月更新

田舎暮らしをする前に(1)

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<1章>

 いつ頃からでしょうか。都会に暮らす人々の間で「田舎暮らしに対する憧れ」を口にする人が増えていま す。そして、それは都会という無機質な環境で生活することに疲れた、もしくは幻滅した人たちが自然溢れ る田舎になにかしらを期待する気持ちから起こっているようです。「なにかしら」とは「ゆとり」であったり「癒 し」であったりするようです。かく言う私も8年ほど前に田舎暮らしを勧めるセミナーに出かけたことがありま した。当時の私も「なんとなく」田舎暮らしに憧れていたひとりでした。

 妻とともに会場に赴きますと、会場は多くの人で溢れかえっていました。私と同じように考えている人が 「いかに多いか」に驚いたものです。確か、そのときのセミナーは九州地方の方々が主催していたように思 います。それぞれの地域のお役所がブースを構え、来場者の関心を惹こうとのぼりなどを立てていました。

 会場を一回りしながら各ブースがアピールしている様を見ていますと、過疎に悩む地方の実態が想像で きました。中には、住宅の家賃を補助するシステムを導入していたり、さらには家賃の補助どころか住宅そ のものを用意しているブースもありました。そうまでして、人口を増やす努力をしていることに驚かされまし た。

 私は会場を一回りしたあとに鹿児島県のある市のブースに立ち寄ってみました。そのブースには感じのよ さそうな中年男性が二人座っており、私たちが椅子に腰掛けると笑顔で迎えてくれました。

 世間話から始まり、その地域の実状などを聞いたりしながら、結局30分ほど滞在しました。

 話の中で一番印象に残っているのは、過疎の地域が「求める住民像」です。それは「小さなお子さんがい る若い夫婦」でした。これは、考えてみれば尤もなことで、過疎に悩んでいるのですから、人口を増やすた めには、小さな子供が必要ですし、これから子供を増やす可能性が高い若い夫婦は最適です。残念なが ら、私たち夫婦はその住民像には当てはまりませんでした。

 そのほかの話の細かい内容までは忘れてしまいましたが、全体的に感じよく話をしてもらえた印象が残っ ています。

 話の細かい内容は覚えていませんが、お二人から話を聞いたあとに感じた自分の感想は明確に覚えて います。それは、「田舎暮らしは簡単ではない」という感想です。対応してくれた二人の男性が、「元々いい 人だったから」か、もしくは「私たち夫婦が求める住民像に相応しくないから」かわかりませんが、お二人は 地方で暮らすことのマイナス面を率直に話してくれました。

 本来なら、このようなセミナーは地方に「移住する人を募集する」のが目的ですから、田舎暮らしのマイナ ス面の話よりもプラス面に話の重点を置くはずです。マイナス面の話ばかりをしますと、誰も「移住したい」 などとは思いません。しかし、お二人は、地方で生活することのマイナス面を正直に丁寧に話してくれまし た。マイナス面という言い方ではあまりに抽象的ですので、通称的な言葉に変えますと、「面倒なこと」「不便 なこと」「煩わしいこと」などです。これらを短い言葉で言い表しますと「大変なこと」になります。

 お二人の話は、私がそれまで抱いていた「田舎暮らしへの憧れ」を全て打ち消すものでした。それ以来、 私は安易に田舎暮らしを考えることはなくなりました。「絶対、私には無理な生活」と感じたからです。

 そのときを境に、私は田舎暮らしに夢を抱くことはなくなりましたが、田舎暮らしに関する情報については 関心を持つようになりました。そして、「田舎暮らしの情報」と「脱サラに関する情報」に似通ったものを感じ るようになりました。

 私は、自分の脱サラの経験をもとに「安易に脱サラを考えること」に警告を発するサイトを開設していま す。理由は、私からしますと、実態を伝えることなく安易に脱サラへの憧れを煽る情報が多いと感じていた からです。それと同じ状況が田舎暮らしの情報でも起きている、と思いました。つまり、実際に田舎暮らしを したときの、本当の大変さについて正確に伝えていないことを憂慮したのです。
 

「田舎暮らし」と「脱サラ」の二文字をつなぎ合わせたときにすぐに連想するのは、地方での「ペンション経 営」ではないでしょうか。実際に、数年前、テレビで脱サラでペンション経営をする家族のドキュメンタリーを 見たことがあります。その番組を見たときの感想は、ペンション経営は業種こそ違いますが、脱サラでラー メン店をはじめるのと同じ危険があるように思えました。さらに言うなら、ラーメン店に限らず脱サラで「商売 を始める」ことに共通する危険です。
 

テレビのドキュメンタリー番組が100%真実を伝えていないことは、ラーメン店の脱サラを取材したドキュメ ンタリー番組で経験していました。ドキュメンタリーで取り上げられたケースがたまたま見知った店だったか らです。ですから、ラーメン店にしろペンションにしろ脱サラに関するドキュメンタリー番組が伝える内容に は、事実とは異なる演出があることを知りました。それ以来、私は脱サラなどの番組を見るときは、番組内 容と事実のギャップを自分なりに埋めながら見るようにしています。
 

テレビ番組は、視点をどこに置くかでその内容が違ってきます。極端な例では、180度違った内容にさえな ります。仮に、田舎暮らしを勧める視点ならば、田舎暮らしの「素晴らしさ」をメインに伝えようとしますし、反 対に、警告を発する視点ならば、「大変さ」をメインにした番組作りをします。
 

一般的に、テレビや雑誌など情報メディアは「広告なし」に成り立つことはできません。無料で視聴できる テレビは元より、雑誌も販売だけの収入では成り立たない経営構造になっています。ですから、当然のごと く視点はスポンサー側に立たざるを得ないことになります。このような状況は、それらメディアから情報を得 る視聴者なり読者が「中立な情報」を得ることができないことにつながります。
 

このような状況を踏まえ、私は、自分が考える中立な立場からこのテキストを書きました。当然、私は「田 舎暮らし」の経験はありませんので実体験として情報を発することはできません。ですが、脱サラにおける 経験からメディアが伝える情報と実態の乖離についてはある程度想像することができる、と思っています。 具体的には、田舎暮らしの情報において「これは誇張してるな」とか「意識的に軽くしか触れてないな」などと 情報を修正することです。

 修正するには、主張の異なる正反対の考えを知ることは第一歩です。両方の正反対な考えを知ることな しに修正することはなんの意味もありません。田舎暮らしの情報に関しても「素晴らしさ」を強調する情報量 はたくさんありますので、苦もなく集められます。ですが、「大変さ」を伝える情報はそれほど多くはありませ ん。その中で、私が主に参考にしたのは丸山健二氏の「田舎暮らしに殺されない法」という本です。この本 は実生活に基づいた、とても具体的に書かれた本で、田舎暮らしの核心をついているように思います。そ の核心を端的に言うならんば、「他人の視線を意識した生き方」に疑問を呈していることのように思います。 純な心で「田舎暮らし」を望んでいるのか、を読者に投げかけています。

 本テキストは「~する前に」という題名が示すように、「入門書」という趣があります。ですから、内容につい てもっと深く考えたい方は是非とも丸山氏の本をお読みになることをお勧めします。

*田舎暮らしに殺されない法 (朝日文庫)

<第1章>おわり。

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