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~する前に一覧><脱サラをする前に*リンクフリー 全頁無断転載禁止 2011年12月更新

田舎暮らしをする前に(2)

1章  2章  3章  4章 

<第2章>

さて、田舎暮らしについて書くにあたって、まずは、私の得意分野である脱サラに関係する「ペンション経 営」や「民宿経営」について考えを書きたいと思います。

メディアには、田舎暮らしを実現したいという「夢」とそのために必要な「仕事」を両立させる、という意味で 「ペンション経営」を勧めるものがあります。確かに、自然に囲まれた中で生活し、しかも仕事までできるの ですから、ある人にとっては「ペンション経営」は理想的な生活環境であるように思えます。しかし、あくまで 「ペンション経営」は脱サラです。脱サラとは「必ず収入があるとは限らない」ことです。つまり、お客様が来 なければ収入がない、ことです。脱サラとは商売をすることにほかなりません。人口が多い都会の中でさ え、商売は難しいものです。その商売を、人口が少ない田舎で行うことがどれほど難しいかおわかりになる でしょう。

もちろん、ペンション経営の基本は、都会人のレジャーの1つである「旅」や「観光」を満たすための存在で すから、人口が少ないことは関係ない、と思われる人もいるでしょう。ですが、「人口が少ない」ことは、お客 様に認知してもらう機会が極端に少ないことを意味します。その意味で「人口が少ない」ことは大きなデメリ ットです。

私が以前見たドキュメンタリーでは、開業当初に経営者の友人知人が宿泊する様子が映し出されていま した。そのときの様子は、友人らがお祝いを兼ねて訪れておりお客様というよりは友人知人の集まりといっ た趣でした。しかし、こうしたお祝いは1回限りのことであり、決してペンション経営の参考となるものではあ りません。たぶん、友人知人が一回り宿泊したあとは集客に苦労するでしょう。こうした状況は脱サラで飲 食店を開業するケースと全く同じです。ペンション経営で大切なのは一般のお客様をいかにして集めるかで す。

そのような環境で集客するには広告しか方法はありません。しかし、その広告でさえ、同業者全員が活用 するのですから、競争が激しくなるのは想像がつくと思います。広告の効果には限界があり、集客は本当に 難しいものがあります。

そこで誰もが考えるのは「リピーターを増やす」ことです。一度宿泊したお客様が再度宿泊してくれるのが 最も理想的なお客様を増やす方法です。そして、リピーターを増やすにはお客様に満足してもらうことが大 前提ですが、そのためには料理や接客などで満足感を与えることが大切になってきます。しかし、満足感を 与えることだけでは厳しい競争業界で生き残っていくのは容易ではありません。さらにそのうえに、お客様 に感動を与える必要もあります。ですが、これも容易ではなく、ほかのペンションや宿と同程度のサービス を提供するのでは、間違っても感動など与えることはできません。よく言われる「差別化」を充実させること が必要です。料理にしろ接客にしろ、そのペンションだけが醸し出すことができるサービスを提供することが 必須です。

 こうしたことは、新しくお店を開業することと全く同じです。そうしたお店はお客様にリピーターになってもら うために日々努力する必要があります。常にお店のことを考え、一日中必死に働く必要がありますが、全く 同じようなことをペンション経営においても行うことが求められます。このような状況では、経営者が「自然を 満喫する」時間など持てないのが普通です。

もう、おわかりでしょう。ペンション経営は「商売をすること」です。田舎暮らしで得られると思っていた「自 然を満喫すること」などとは無縁の世界です。ましてや「ゆとり」や「癒し」などを感じている暇はありません。 一日中、仕事に追いまくられるのが実際の姿です。仮に、「ゆとり」や「癒し」を感ずることができているなら ば、その状況は、ペンション「経営」という面においては危険な状態であるともいえます。
 

見方を変えるなら、ペンション経営は、自然に囲まれているがゆえの「不便さ」で経営上はマイナスの環境 とも言えます。そして、「不便さ」は非効率な時間が生じることを余儀なくされることでもあります。そうします と、否がおうにも時間に追いまくられることになります。田舎暮らしを恨むことはあっても、田舎暮らしを楽し むことなどできません。
 

また、田舎暮らしであるがゆえに、親しい人、相談できる人もほとんどいない環境です。そうした生活環境 では地域の住民に頼らねばならないこともあります。しかし、なんの地縁も血縁もない田舎で親身になって 相談に乗ってくれる人などいません。都会からやってきた人は地元の人たちにとってみればヨソ者でしかあ りません。いついなくなるかもしれないヨソ者に心を開いて接してくれるほど田舎は甘くありません。
 

地域に溶け込む努力は必要です。地域のペンション協会のような団体に入会する必要もあるかもしれま せん。ですが、やはりヨソ者でしかありません。いくら協会に入会しようとも、ライバル関係であることには違 いありません。どこもライバルに力を貸すほど余裕などありません。結局は、自分と家族だけの力が頼りで す。
 

協会などに加入した場合、地域特有の「決まりごと」もあるでしょう。しかもその「決まりごと」は地元の人た ちにだけ意義のあることが少なくありません。そのようなときは、その「決まりごと」に足元を掬われることも あります。地域に溶け込む努力は大切ですが、真の意味で溶け込むにはかなりの日数が必要となります。 それまで耐えられるかが勝負の分かれ目です。
 

これまで書いてきたことからわかりますように、田舎暮らしを実現させるためとしての「ペンション経営」は 成り立たないことがほとんどです。せっかくの田舎暮らしでありながら、生活そのものは仕事に追われ、田 舎暮らしを実感することなどできないのが現実です。田舎暮らしをすることで思い浮かべていた「ゆとり」や 「癒し」を感じることなど夢のまた夢です。やはり、理想とする田舎暮らしを実現したいなら、「脱サラ」の状況 ではないことが正しい考え方です。田舎暮らしをすることだけでもリスクがあるうえに、脱サラというさらにリ スクが高い「ペンション経営」まで抱え込むのではあまりに無謀です。
 

では、「脱サラ」でない「会社勤め」という選択はどうでしょう。
 

これは考えるまでもありません。田舎に生まれ育った若い人たちが地元を離れ、都会に出て働くのは就 職場所が少ないからです。田舎での就職が、都会よりも困難であるのは少し考えれば想像がつくのではな いでしょうか。

理想的な田舎暮らしの実現は、生活面において金銭的余裕のある人たちに限られます。いくら生活費が かからない田舎といえどもお金がなければ生きていくことはできません。それは都会であろうが田舎であろ うが変わらない事実です。
 

そうは言いましても、中には、「田舎では、物価が安いはずだからなんとか暮らしていけるのではないか」 と考える人もいるでしょう。しかし、その考えも冷静になって考えてみるならば、正しくないことはすぐにわか ります。

<第2章>おわり。

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